20186/15 特集 高齢化する社会をリードする人材の基礎知識「高齢社会検定」

第5回高齢社会検定試験

超高齢未来をリードする人材の基礎知識 「高齢社会検定」

60歳以上の人の何割が65歳以降も仕事をしたいと思っているか、ご存知ですか。内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」(2014年)によると、実に約7割の人が65歳を越えても働くことを望んでいます。一方、65~69歳の就業率は41.5 %ほど(2015年)。就労意欲と現実のズレが見られます。人生100年という長寿時代を誰もが安心して豊かに生きていくには、この就労問題をはじめ、様々な面で社会のあり方を変えていく必要があります。高齢者が相対的に多くなる「超高齢社会」、また人生100年時代を迎えて「長寿社会」に対応した社会へと変えるには、「高齢者」と「高齢社会」の実態を、私たちが正しく理解しなければなりません。これらは、これからのまちづくりであったり、高齢者向けの商品サービスづくりであったりと、未来を築くあらゆる分野で必要とされる基礎知識なのです。


高齢社会検定とは

「高齢社会検定」は、個人の長寿化、社会の高齢化に伴う課題を解決し、より豊かな未来を築くために必要な知識の提供を企図して、2013年度、一般社団法人 高齢社会検定協会(会長:小宮山宏、代表理事:秋山弘子)が創設したものです。試験は「東大がつくった高齢社会の教科書」から出題されます。テキストは総論、個人編、社会編(後述)から構成され、受験にあたっては関心のある領域を選択できるよう、(1) 個人コース(総論と個人編)、(2) 社会コース(総論と社会編)、(3) 総合コース(全て)を設けています。テキスト及び検定とも、東京大学高齢社会総合研究機構が監修しています。
合格者には、高齢社会共創センター(2017年度より高齢社会検定協会を改組)が認定する民間資格「高齢社会エキスパート」の称号を付与します。高齢社会を熟知した証や、エキスパート間の交流の一助となるものです。

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公式テキスト「東大がつくった高齢社会の教科書」

公式テキストは、ジェロントロジー(高齢社会総合研究)に精通した東京大学の教授陣が中心となって制作し、長寿時代の人生設計と社会創造の実現に向けた基礎知識を提供するものです。総論(1~3章)では、個人と社会に共通して理解すべき、超高齢未来の姿、課題、そして課題解決に向けた方向性について、まとめています。
個人編(4~12章)では、長寿時代における人生設計課題の解決に役立つ知識として、長寿時代の理想の生き方・老い方からケアと終末期の対応まで網羅しています。高齢になると自分はどうなるのか、どんなことを心がけておけばよいのか、課題にどう向き合えばよいのか。人生設計を手助けする情報が詰まっています。社会編(13~20章)では、超高齢社会における高齢化諸課題の解決に役立つ知識として、社会保障制度全般から高齢者と法に関することまで、こちらも多岐に渡るものとなっています。これからの本格的な超高齢社会に求められる社会制度・システムのあり方を示すものです。
行政関係者にはこれからの超高齢社会における政策立案場面で、企業関係者にはこれからの事業展開、商品サービス開発場面で、また医療・福祉等の専門職及び一般の方々にも今後の社会の方向性(可能性)を理解する面で役立てる内容となっています。新たな人生、社会のデザインを学ぶ上での必読書と言えます。


高齢社会エキスパートとなることで

「高齢社会エキスパート」であることは、ジェロントロジーの基礎知識を有している、つまり高齢者及び高齢社会に関する総合的な理解ができていることを証明します。これまで第1~4回(2013~2016年度)と試験を実施し、合格者である高齢社会エキスパートは1400名を超えました。高齢者等について正しい知識を有している高齢社会エキスパートであるだけに、皆様にはそれぞれのお立場のなかで、未来社会・生活を創るリーダーとしてご活躍いただくことを期待しています。同時に高齢社会共創センターとしても、高齢社会エキスパートの皆様が交流し合える、互いに刺激し切磋琢磨し合えるような機会を創出していきたいと考えています。

201711/9 特集 「エイジノミクス」の勧め ~高齢化をイノベーションの機会と捉え経済成長につなげる考え方

戦後の高度経済成長をもたらした最大の要因は生産年齢人口の増加ではない

高齢化と経済との関係を論ずるとき、しばしば生産年齢人口が注目されます。確かに生産年齢人口の減少は経済の抑制要因となります。しかし過度に悲観するのも問題です。戦後の高度成長の一時期、経済の平均成長率は10%でした。同時期の生産年齢人口の伸び率が1%だったことを考えると、残りの9%の伸び率は何がもたらしたのでしょうか。経済学的に言うと労働生産性の伸び率が9%あったということになります。しかし別の見方もできます。戦後、地方から多くの若者が都会に出てきて新たな世帯を形成しました。この核家族化の波に乗った世帯数の増加が、家電や自動車などの新たな需要を掘り起こしました。つまり、核家族という形態の世帯が増え、新たな人生スタイルが生まれたことが、イノベーションを起こし、戦後の高度経済成長を牽引したとも言えるのではないでしょうか。


変化がイノベーションを起こす

既存のモノやサービスに対する需要は飽和するという経済の鉄則があります。逆に言うと経済成長のエンジンは、既存品の延長線上にはない革新的なモノやサービスを生み出すイノベーションです。高齢化のように世の中が大きく変わる時は、必ず新しいニーズが出てきます。そしてイノベーションが求められるようになります。また、生産年齢人口が減っても生産性を高めれば、労働力の減少を十分補えます。近年、かつて経済成長に寄与した制度が、高齢化という人口構造の変化によって、むしろ成長の足を引っ張るようになっています。そのため、制度の変革による生産性向上の余地は、高齢化によって逆に大きくなっています。医療、介護、建物、自動車、流通、まちづくり、金融まで、高齢化ですべてのものががらりと変わる可能性があります。まさにイノベーションを起こすチャンスです。


高齢化はイノベーションの宝庫 ― イノベーションのパターン

高齢化が生み出すイノベーションには、病弱な人に恩恵をもたらすものと健常な人に恩恵をもたらすものがあります。また別のパターン分けもできます。それは新しい財・サービスが主導するイノベーションと制度や仕組みの改革が主導するイノベーションです。例えば病弱な人には創薬、介護ロボット、遠隔医療など、健常な人にはシニア向け旅行サービスやシニアフィットネスなど様々な財・サービスが提供されるようになるでしょう。一方これら新しい財・サービスの導入や、高齢者の就労促進などの妨げになっている既存の制度や仕組みも数多く存在します。介護ロボットの導入や混合介護、旅行業務やライドシェアリングなどに関する制度改革、あるいは高齢者の生産人口への参入を容易にするような高齢者雇用の規制改革が、経済を活性化する可能性は大きいのです。


長寿化&個別化へと変わる時代 ― 人の数より人生の数がイノベーションを起こす

人生100年時代は、「学習→仕事→引退」といった単線的な生き方では乗り切れません。これからは、何度か学習の機会を得、仕事もチェンジし、場合によっては生涯現役といった、複線的な生き方が主流になるでしょう。そして、健康状態などに応じて各人がより良く生きるために、それぞれが異なる人生スタイルを選択することになるでしょう。いわば人生スタイルの個別化が進むのです。その変化はニーズの個別化でありイノベーションと成長の機会でもあります。戦後、核家族化という新たな人生スタイルが経済を牽引したように、これからは高齢者を含め、人それぞれの新たな人生スタイルの登場が、経済を牽引していくことになるでしょう。高齢社会は人の数より人生の数が経済を活性化する時代なのです。


● 本特集は 『「エイジノミクス」で日本は蘇る(NHK出版新書)』 を題材に岡本憲之氏が書下ろされました。

● 11月16日に高齢社会共創センター創設シンポジウム「長寿社会を共創する」において、『「エイジノミクス」で日本は蘇る』編著者の吉川洋先生にご講演いただきます。
シンポジウムの申し込みは こちら からお願いします。


プロフィール 岡本 憲之 / Noriyuki Okamoto特定非営利活動法人日本シンクタンクアカデミー 理事長

東京大学工学部卒業。三菱総合研究所主席研究員、同上席研究理事、また政府資源調査会専門委員、一橋大学大学院客員教授などを歴任。
現在は高齢社会共創センター理事、高齢者活躍支援協議会理事長代行、高齢社会NGO連携協議会理事などを兼務。専門はシステム工学、社会システム。共著に『全予測環境問題』、『21世紀型社会への構図』、『「エイジノミクス」で日本は蘇る』など。


20175/17 特集 人生100年時代の新しい社会を共創する拠点「高齢社会共創センター」

高齢化社会のフロントランナー日本のチャレンジ

日本は世界最長寿国です。人口高齢化の影響により、私たちが生活するコミュニティの現場では、医療や福祉の領域にとどまらず、経済・産業・文化の広い領域において複雑で多様な課題が生じています。一方で、前の世代とは全く違う価値観のもと、自立した生活を謳歌し、活躍する高齢者が増えています。人生100年時代の到来です。今までの社会は人生50年のライフスタイルに合わせてつくられてきました。今、新しい時代の新しい価値観に合わせて社会のシステムやインフラを転換する時期に来ています。前の東京オリンピックがそうであったように、時代が変わる時には必ず経済成長のチャンスが転がっています。高齢化社会においては、経済成長ばかりではなく、健康、長寿の分野においても大きな可能性を秘めています。このような時代背景のもと高齢化社会のフロントランナーである日本のチャレンジとして高齢社会共創センターは産声をあげました。

長寿社会の課題と可能性

コミュニティはソリューションの宝庫

国・基礎自治体レベルはもとより、各大学・研究機関等において、急速に進む高齢社会の課題は整理され、様々な対応策が講じられてきました。私の所属する東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)や総括を務めたJST社会技術研究開発センター(RISTEX)「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究開発領域では、マルチステークホルダー体制で実際に地域課題を解決しながら他地域で参考になりうるモデルづくりに邁進してきました。リタイアメント層や営農者の生涯活躍のあり方、自立期間を延伸するための社会システムの創出、最後まで尊厳を保ちながら自分らしく生きられる文化の醸成など、各地の取り組みから数々の知見や技術が創出されました。日本の各地、各組織にソリューションという名の宝の山が埋もれている状態なのです。

長寿社会の課題と可能性
セカンドライフを謳歌するシニア

ソリューションをアクションの原動力に。新しい社会を共創するネットワーク拠点

今必要なのは新しい時代を創るために一歩踏み出すことです。点在したこれらのソリューションを原動力として、実際のアクションを起こすことが求められています。一個人、一組織、一つの分野の中に閉じこもっていては、アイデアもパワーも限りがあります。無論企業の参画も不可欠です。マルチステークホルダーが一丸となり、それぞれの強みを発揮して、新しい商品サービスからまちのあり方に至るまで共創する。それには真に役立つ生きた情報やそれを選別、駆使しながら地域協働を先導できる人材が必要です。どれ一つを欠いても新しい社会の実現は叶いません。高齢社会共創センターがネットワーク拠点となることで、活力と魅力ある持続可能な長寿社会の実現に貢献したいと考えています。

活力と魅力ある持続可能な長寿社会

プロフィール 秋山 弘子 / Hiroko Akiyama東京大学 高齢社会研究機構

イリノイ大学でPh.D(心理学)取得、米国の国立老化研究機構(National Institute on Aging) フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)、日本学術会議副会長などを歴任。専門=ジェロントロジー(老年学)。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を25年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は超高齢社会のニーズに対応するまちづくりや産官学民協働のリビングラボにも取り組む。超高齢社会におけるよりよい生のあり方を追求。